経営者クラブ『つむぎ会』では、6月29日(水)の12:00〜18:30に豪華ゲストをお招きして、経営者限定ライブセミナーを開催いたします。
そのスペシャルゲストとしてご登壇いただく、株式会社北の達人コーポレーション代表取締役、木下 勝寿(きのした かつひさ)さまにインタビュー取材を敢行。経営者限定ライブセミナー前の特別インタビュー記事を3回に分けてお届けいたします。
前回の1記事目『無一文のフリーターからたった一代で東証プライム上場企業を育て上げた起業哲学〜vol.01』では、木下様の創業のきっかけや、創業当初から大切にしている「絶対に手元でできる範囲で、着実に成果を積み上げる」という、経営に関する考え方などについてお聞きしてきました。
2記事目では、その続編として、どのような経緯で、どのような戦略で、自社ブランドによる健康食品や化粧品という事業にシフトしていったのか、前回に引き続き、インタビュアーの一般社団法人企業共創支援機構 理事の安井 麻代(やすい まよ)と林 周平(はやし しゅうへい)がお伺いしてきました。
経営者限定ライブセミナーに参加される前にぜひ、ご一読ください。
木下 勝寿 – Katsuhisa Kinoshita –
北の達人コーポレーション(東証プライム上場) 代表取締役
エフエム・ノースウェーブ 取締役会長
1968年神戸生まれ。大学在学中に学生企業を経験し、卒業後は株式会社リクルートで勤務。その後、独立するも事業に失敗し、フリーターに。無一文の中、Eコマースに勝機を見出し、コネもツテも一切無い状況から1人で起業し、独自のWEBマーケティングで東証プライム上場を成し遂げ、一代で時価総額1000億円企業に。広告運用や商品開発、顧客サポート、システム開発に至るまでを内製化するとともに、「5段階利益管理」「無収入寿命」などの独自の管理会計による経営で社員一人当たりの営業利益額2,332万円を実現。東洋経済ONLINE「市場が評価した経営者ランキング」1位。日本国政府より紺綬褒章8回受章。
著書『売上最小化、利益最大化の法則─利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)は、「2021年スタートアップ・ベンチャー業界人が選ぶビジネス書」において大賞を受賞。
2022年4月に新著『ファンダメンタルズ×テクニカルマーケティングWebマーケティングの成果を最大化する83の方法』(実業之日本社)を発売。
Twitterにて最新情報配信中 @kinoppirx78
本インタビューは動画でもご覧いただけます。
創業当初の具体的なビジネス内容とは?
林:前回お話いただいた、わらしべ長者的エピソードを伺いたいんですが、独立して一番最初は、商材の種やビジネスのネタを何かしら使うかと思います。
その中で得たフィードバックを、また次のチャンスにつなげる。そこからさらにフィードバックを得てといったサイクルで進まれていると思うのですが、どのようなビジネスの掴み方をされてきましたか?
木下:創業時だと細かい話になりますが、最初はまず、北海道の特産品をネット通販に落とし込もうと考えました。
とにかく当時はお金が全くなく、資本金も一万円でしたし、昼もアルバイトをしていました。そんなお金がない状態だったので、最初はまず、何社かの北海道の業者と契約しました。
契約内容を簡単に説明すると、「僕がホームページを作り、業者の販売する商品を載せる。宣伝もする。そして、注文が来たら僕が受けて、(当時の連絡手段として)FAXでオーダーをかける。その後に商品を送ってもらう。お客さんから入金してもらったら、手数料を差し引いてお渡しする」という一切先払い・仕入れが発生しない内容でした。
今でいうドロップシッピングのモデルに近いでしょうか。このような形でスタートし始めて、最初はとにかく北海道の会社に片っ端から電話していました。初めて仕入れられるようになった商品は乳製品です。牛乳とかチーズから、かまぼこ、ハム、ソーセージ、メロン、と広がっていきました。
半年ぐらいして、蟹を仕入れるようになると、一気に売上が伸びました。
とは言っても、売上が、初月3〜4万円とかだったので、売上が伸びたと言っても、せいぜい20万円程度でしょうか。
小売業が初めてだったこともあり、それまでは、とにかく「どんな商品でも良いから、自分の力で何とか売ろう」というスタンスでした。
ですが、蟹を仕入れて売上が伸びたという経験から、「商材によって売上がそもそも全然違うんだ」という気づきを得られたのは大きかったです。
「どんな商品でもいいから」ではなく、「どんな商品を扱うかが大事なんだ」と、そこからは「商材選び」にシフトして、商材の中心を蟹にしました。
また、当時は「ネットで月商100万行ったらすごい」と言われていたんです。「月商100万円を超えれば本が書ける」という時代で、当時の日本における成功者、つまりネットで月商100万円超えの人はほんの数名でした。
同業者はみんな、1年ぐらいかけての月商100万円超えを目指していたので「うちは半年で100万行くぞ」と決めました。
半年で月商100万円を目指したものの、最初の3ヶ月経っても、まだ月商10万円だったんです。残りの3ヶ月で月商100万円を超えるのは絶対に無理だと感じました。つまり、ここで「今の延長線上では絶対に成功しない」とわかったのです。
月商100万円への試行錯誤の日々〜頭でっかちになっていた過去からの脱却〜
そこからは、月商100万円に達している会社を調べ、ホームページを隅から隅までチェックしました。どういう作り方をしているかなどを、片っ端からリストアップするといった形です。
最初、僕は「自分の扱っている商品が高すぎるから売れないのかな」と思っていました。当時自分がつけていた値段は多分4,000円ぐらいだったでしょうか。
しかし、今売れているというサイトをリサーチしたところ「良いなあ、買いたいな」と思える商品は6,000円ぐらいの値段となっていました。
そこで「俺が扱っている商品が高いわけではないのだ、高く見えてしまっている!つまり価値がお客様にちゃんと伝わっていない。価値が正確に伝われば、5,000〜6,000円は出してくれるのだ」と思い直しました。
やがて、自社のページを全部作り直すことにしました。すると、月商は10万円から、30~40万円ま上がってきたんです。しかしながら、月商100万円までは遠い…。
それからは、月商100万円を目指すために、どうすべきかをさらに模索しました。
当時の業界は、「ECやネットショッピングを世の中に広めていこう!」という風潮があり、各社が自分たちのノウハウ、上手く行った例などを出版して共有してくれていました。
そういった中で、メールマガジンに登録してもらえば、商品の宣伝に使えるという考えがあると知ることができました。
僕もメールマガジンでの集客に興味を持ち「読者はどうやって集めるんだろう?」と考えるようになります。
すでにメールマガジンで読者を多数集めていた先行者に聞くと、当時は懸賞サイトが流行っており、例えば「蟹を10名様にプレゼント」という懸賞へ応募する際に、メールマガジンの登録を必須にすることで読者を集めているとのことでした。
じゃあそのやり方でウチも読者を集めていこうと思いましたが、「懸賞サイトに応募する人って、商品をただで欲しいから応募しているんだよ。購買層ではないよ」と言う方もいたんです。確かにそうかもと思いました。
このように、色々と試行錯誤が続きました。
その後、1年ほと経過したあたりで「月商100万円に到達した方のセミナー」を受講する機会があったんです。僕は、そこで初めて月商100万円の方を生で見ることになりました。
セミナーへ参加して、その人もメールマガジンで売っているとわかったため、質疑応答で「どうやってメールマガジンの読者を集めたんですか?」と聞きました。
すると「懸賞サイトです」とのことでした。そこでさらに「懸賞サイトの人は、無料で商品が欲しいから応募するのではないでしょうか?それは、『買う気がない』と言えませんか?」と質問しました。
すると「確かに、そういう人もいるかもしれません。でも、そうではない人もいます」と答えてくださった。実際、懸賞サイトで集客してみると、その通りだったとわかるのですが…。
当時も「実際にうまくいっている方がいるなら…」とメールマガジンに進出してみたら、その月の売上がいきなり100万円に達しました。
完全に、頭でっかちであり、もともと理屈っぽいため「こういう人ってこうだよね」というバイアスがかかっていただけでした。
人には色々な側面があるはずです。普段着としてルイ・ヴィトンの服を買う人も、部屋着がユニクロであることは、よくあります。
ユニクロで買う人だってルイ・ヴィトンを買わないわけではありません。もちろんルイ・ヴィトンを買わない層も一定数いらっしゃるかもしれませんが、人には本来、色々な側面があるにもかかわらず、勝手な思い込みで可能性を自分が閉じてしまっていたのです。
以降は、「もうとにかくやってみよう!」という気概になりました。
仮に、ある理屈があったとしても、まず別の人の意見を聞いてみようという気持ちになったのです。
例えば「この方法はうまくいかないよ」という話を聞き、「なるほど、確かに理屈は通っている。それなら、逆にそのやり方でうまくいっている人は本当に1人もいないのだろうか?」と考えられるようになりました。すると、自分の「持ち幅」が広がってきた感触が得られました。
メールマガジンを極め、当時の読者数は2〜30万人で日本トップ10入りを達成!
林:メールマガジンの活用により月商100万円を達成された後は、どのような施策をされていったのでしょうか。
木下:メールマガジンがうまくいった以降は、とにかくメールマガジンを極めようと思いました(笑)。
メールマガジンの読者を集めることに注力した結果、2〜30万人のメンバーが集まり、当時の日本におけるメールマガジン読者数のトップ10になっていました。
また、「どういう商品を懸賞サイトに出せば応募者を集められるか?」といった、「懸賞サイトでの集めやすいやり方」を徹底的に研究しました。
当時は、メールアドレスを1件獲得するコストを1円程度にできていたと思います。
林:すごい。今だったら考えられないですね。
木下:今だと最低でも100円ぐらいはかかってしまいますよね。
安井:ちなみに、メールアドレスを獲得するために、どのような商材を懸賞サイトに出すと特に効果的だったかお伺いしてもいいですか?
木下:「チーズ〜」という商品名、つまりチーズ系が一番いい反応でした。
チーズ系の中でも一番良かったのはチーズケーキでした。チーズ系のスイーツに対しては圧倒的に応募がありましたね。
また、賞品だけではなく、「どのぐらいの当選者数にすれば集まるのか?」についてのデータも収集しました。
当たり前ではありますが、当選者数が多ければ多いほど、当たりやすそうだからみんな応募しますよね。
チーズケーキが人気なら、チーズケーキを1000名様に当選させればいい。しかし、この方法だとコストがかかります。
そこで、1ピース200円ぐらいのチーズケーキの写真を、3倍ぐらいの大きさに見えるような盛り方で撮影したことがありました(笑)。
そちらを1,000名に当選させると、1人200円なので、費用は20万円ぐらい。さらに送料も含めれば30万円ほどかかりますが、懸賞1回につき5万件ぐらいのご応募をいただいたこともあります。
林:ちょっと今とは桁違いすぎて……すごいですね。
木下:30万円で5万件の応募だから、1アドレス6円です。
林:その頃、木下社長は1人でやられていたんですか?
木下:そうです(笑)。研究みたいなことが大好きなので。
林:では、当時その、チーズ系で攻めれば当たる、といったノウハウは誰も知らなかったということでしょうか?
木下:多分、知らなかったでしょうね。
僕は当時、懸賞サイトを使って応募者を集めれば、メールアドレスが獲得できるという方法を同業者に教えていたんです。
ところが、教えた同業者が色々手を尽くしてもあまり効果がないと言っていて、「そうか、商材によって違うんだ」ということもわかりました。
さらに、僕らは蟹などの食品を提供していたので、食品だと集まりやすいのだということもわかってきました。「じゃあ、食品でもウチの取り扱うカテゴリの中では、どれが一番集まりやすいだろう?」というように、さらに調査していったんです。
途中から、別に自分たちが扱っている商品だけに限る必要もないと気づきました。チーズ系の商品を出せば応募を集めやすいとわかったのも、そういった細々とした検証の成果でしたね。
安井:確かに、蟹だけだと間口が狭く感じますが、チーズケーキは当たりそうな気がします。
木下:「チーズケーキを食べない人」っていないんですよね。
2004年にECが一般化!〜何かを仕入れてネットで販売する事業モデルでの差別化は難しいと感じ自社ブランド製品へシフト〜
林:メールアドレスの獲得に成功された後は、どのようなことがありましたか?
木下:多分このお話をしていくと、本番と内容がかなり被ってしまうと思うんですが、大丈夫ですか?(笑)
林:もちろんです(笑)。
木下:メールマガジンの運用で売上が得られていて、2004年に楽天さんがプロ野球参入を表明したんですよね。
そのとき一気に「EC」が日本で一般化されたんですよ。
今までは「ネットで物を買うなんて、大丈夫か?」みたいな感じだった方々が、「ネット通販を運営している企業が、プロ野球の球団を持つぐらいにまでなったんだ」と気づくようになりました。
さらに、ネットで物を売る人々も「ネットで物を買う人がそんなにいるんだ」と気付き、一気にネットで何かを売る人が増えたんですよ。
それまでも北海道の特産品をネットで売っている業者はそれなりにいましたが、そこまで多くはなかった印象でした。
しかし、これを契機に、北海道でもともと水産業をされている方々が一気に楽天市場に出店しました。楽天市場の中で北海道の特産品を取り扱う会社は500社にもなったんです。
一体、この500社の方々がどうやって楽天に出店できたかというと、既にネット通販で売れている会社のサイトを真似して自社のページを作るという方法によるものでした。
当時私達は楽天には出店していなかったのですが、うちにそっくりなサイトがたくさん出てきたんです。
ここで「インターネットビジネスとして何かを販売する上では、もう差別化はできなくなってしまった」と感じました。
例えば、リアルの店舗ならばエリアの差別化ができます。
Aという商品を売っている会社はどこにでもあるものの、ある地域には1店舗しかないのであれば売れますよね。
この「エリア」という考え方はネットでは全く通じません。でも、商品の差別化がなければ成り立たない世界です。そこで、「商品差別化を図るには、仕入れて売っている時点で駄目なのではないか」と気づいたんですよね。
ネットショップの黎明期は過ぎ、ECが当たり前の時代になったのだとすれば、ビジネスモデルのあり方を変えていかなければならないと思いました。
そこで「何か差別化を図ろう」と考え、「訳ありグルメ」に着目しました。
「訳あり」とは、足の折れた蟹とか、端っこが切れてしまった商品などです。取引先からはよく、そういった商品があるということは聞いていたのです。
そこで、味は問題ないが足の折れた蟹や、端っこの切れたタコなんかを安く売るサイトを作りました。すると、テレビの取材が殺到しました。
当時は、1年間で30回くらいテレビで紹介されました。朝来たらもうカメラが回っていました。ずっとテレビカメラが社内にあるような、テラスハウスみたいな感じです。「これは当てた」と思いましたね。
ところが、そんなことはありませんでした。テレビではしょっちゅう紹介され、「わけあり」商品に対する消費者の母数も増えたようでしたが……それ以上に、真似する会社が増えたんです。
結局、アイデア勝負を仕掛けている限りは同じ結果になってしまうと気づきました。消費者の行動はこうです。「わけありグルメ」として我々がテレビで紹介されますが、その番組を見て「良いなあ」と思った消費者の方はインターネットで検索します。ただ、検索しても、うち以外の会社もずらーっと出てくるため、そちらを選んでしまうのです。
この際の心理としては「さっきのテレビの企業はどれだっけ?」というものにはならず「わけありグルメってどこでも一緒だろうし、この中で一番いいやつを買おう」というものになってしまうのです。
この時に僕が気づいたことは「そうか。ネット上で目立つ・目立たないの差によって売上が左右されるのではないんだ。ネット検索とは『一番いいもの』を探すためのツールなんだ。検索結果で比較検討された時に、一番いいものを扱っている会社にならないといけないんだ」ということでした。
つまり、自社ブランドで勝負していくしかない、ということです。
そこで今のように、自社ブランドによる健康食品や化粧品といった商材へとシフトしていくことになりました。
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