経営者倶楽部『つむぎ会』では会員限定イベントとして企業共創アライアンス大会を開催しています。

つむぎ会の理事であり事業投資家としても活躍する林周平が2022年4月28日開催の「企業アライアンス大会」にて、1時間のセミナー内で語った内容をvol.01〜vol.05の5回に分けてレポートします。

vol.03では、企業共創を生み出す方法として、経営者同士で考え合う事で、新しいアイデアが生まれ、それが企業共創につながるという事をお伝えしました。

vol.04では、経営者同士で考え合い、新しいアイデアが生まれた後に、具体的にどのようなプロセスを経て企業共創の成果へと繋がっていくのか、成功させるための方法論について解説していきます。

林 周平 – Shuhei Hayashi –

一般社団法人企業共創支援機構 理事
繁盛経営アカデミー 代表講
フィールドエックスグループ 代表

1988年神戸生まれ。23歳で独立し、ベストセラー作家の会員ビジネスを立ち上げ、セミナー集客・商品企画・バックオフィスを一気通貫でプロデュース。その後、マーケティング企画・ウェブデザイン会社を創業し、3年間で業績を伸ばし企業売却を行う。個人事務所を立ち上げ、事業投資・M&A・経営コンサルティングをはじめ、メンズアパレルブランドを買収し2年で2.4倍に売上増収させる。シンガポールのベンチャーキャピタルのCOOに就任し、4年間で10事業の立ち上げに関わる。現在は『人の可能性をデザインする』を理念に、事業投資型インキュベーションを行うフィールドエックスグループを設立し、10社のグループ企業に出資・経営に関与している。

ステップ3:企業共創を成功させる方法

最後はステップ3です。ノウハウめいたことも交えつつ、難しい話も含まれるかと思いますが、まず企業共創を成功させる方法について解説します。

企業共創を成功させるために必要な3つの姿勢

企業共創を成功させるためには、まず三つの姿勢が大事だと思います。

一つは貢献の精神、二つ目は相互理解、三つ目は俯瞰視点です。

これがないと話が始まらないんじゃないかなと思っているほど大事です。

【姿勢1】貢献精神

例えば、もし以下のような人がいたとして提携したいと思うでしょうか?

こういった方々との提携は、難しいと思います。

このため、姿勢1として「貢献精神」を挙げました。貢献精神をベースにした信頼関係をまず築くべきです。

当たり前の話ですが、信頼関係のできてない人とは仕事しようという気にはなりません。

信頼関係のために、積極的に自分が「GIVE」できることがないかを探してみてはいかがでしょうか。

倫理観のある相手へ積極的にGIVEしていれば、逆に「私の方でできることはありますか」と聞かれるようになるはずです。

【姿勢2】相互理解

「できる営業は聞くのが上手い」とよく聞きます。

例えば「弊社はこういう会社でして、こんな商材を扱ってます。見込み客はこんな会社で、課題はこういう点です。こういう会社と付き合いたくて、御社は何か私に貢献してくれることありますか」と言う人がもしいたとしたら、ちょっと面倒に感じないでしょうか。

私もビジネスマッチングアプリを使っていた時期が少しあり、このような方に会いました。

Zoomで挨拶して、「初めまして」のあとにすぐ、「あなたは私に何かできますか」といきなり言われてしまい、「いや、ないですかね」と言って5分ぐらいで会話は終わりました。

このような形だとまず話自体が始まらないので、当たり前ではありますが相手の話はしっかり聞きましょう。

つまり、姿勢2として「相互理解」が挙げられます。

まずは相手を知るからこそ提案ができます。企業共創は、提案がなければ絶対に成り立ちません。「既にあるものを買ってください」では一般的な営業活動です。

企業共創とは、お互いの話を聞いた上で「だったらこういうことがうちではできますよ」もしくは「こういうふうにしたらいいんじゃないですか」みたいな会話を重ね、次第に話がまとまる形で成り立ちます。

一見、関連しなさそうなことでも、意外な共創が生まれてくると私は思います。実際に、定例会や相談会などで何度も会員同士が顔を合わせる中で、意外な一面を知れたり、強みが見えてきたりすることがおこっています。

直球で「私はこういう人とだけ組みたい」ではなく、もう少し急がず、緩やかな感じでしっかり相手のヒアリングをします。その上で、相手のためだと思える意見をいろいろ言ってみて、その中で「こういうことが意外とできそうじゃないですか」というアイディアが生まれるはずです。

「しっかり聞く」という相互の理解をしましょう。10分程度で理解できることなど氷山の一角に過ぎません。時間をかけたお付き合いの中で発見できるものだと心得ましょう。

【姿勢3】俯瞰視点

技術力・商材力・販売力の中における「自社の強みとは何だろう」と普段から考えることはあるでしょうか?

まず技術力とは何かを考えると、得意技のようなものだと思います。技術、専門性、ノウハウです。

ここで言う技術とはいわゆる金型のように製造業の技術だけではなく、例えば従業員のモチベーションを一気に上げられるというような研修・技術コンサルティングも該当します。

私なんかだと座組とか戦略することが得意なので、ある意味専門性・ノウハウだといえます。

他にもマーケティングにおける広告運用が非常に上手い、といったことも販売力というよりは「広告運用技術」に該当するので、広義的に捉えてみてください。

販売力とは、既に動いている販路があるかどうかです。

「私が動いたらきっと売れます」ではなく、「既にこの販路で、これぐらいの金額が流通します」といったイメージをここで販売力と定義します。

販売の仕組みとか、どのような属性の顧客リストがどれぐらいあるか、も該当します。

商材力とは、強い商材があるかどうかです。

言い換えると、ニーズが非常に高い領域において、生産・販売を確保できる商品を持っているかということです。

コロナの序盤ではマスクが取り合いになりましたが、その時にマスクを生産できたのであればそれは大きな商材力です。実績として有名所とお付き合いがあるとか、他にブランド力もそうでしょう。

上記三つのバランスに照らし合わせて自社の強み、弱みを把握できているでしょうか。

線を引いて他社を捉えた状態とは

皆さんは、自社と他社との間に完全に線を引き、自社から向こう側は関係ないと考えていませんか?

そのような状態で、前段落の三つの力を見ていると、例えば「あそこの販路が強いな、うちは負けてる」という見方や「実績で勝負されたら勝てないな」とか思ってしまいます。

そうではなく、他社を身内だと思って俯瞰して捉えると、発想が広がります。あっちはあっち、こっちはこっちと壁を作っていると共創のアイデアは生まれません。

「本当は他社でありながら、全部自社だと見てしまう」ということです。

俯瞰して全社の強みを見たときに、Aは販売力が良い、Bは技術力が強く、Cは商品力が強いから、この3社でプロジェクトを進めてしまえば良いのではないか?といった発想が生まれます。

この考え方は、私が以前仕事させてもらっていた経営コンサルタントの大先生の受け売りです。先生は「僕には、世の中の会社がリソースに見えるんだよ」とおっしゃっていました。

さらに「あの会社と別の会社をこう組み合わせればいいのに、みんな自分の会社しか見ていないからそれしか考えられないよね」みたいなことをおっしゃっていて、私がこの感覚を抱くきっかけになりました。

つまり、自社という枠組みを超え、お隣にいらっしゃる会社さんと仲良くしていれば、大きい意味で「身内」に思えるのではないでしょうか?

少し強引かもしれませんが、このような捉え方をしていると「あそこの販路が結構良さそう」「あの人材を使ったらこんなことができるのでは」という俯瞰視点が得られ、共創の幅も広がるはずです。

そこで姿勢3として「俯瞰視点」の重要性がご理解いただけたと思います。自社を超えて、相手のことを仲間だと思い、俯瞰すると、協力できることや重複していることが見えてくるのです。

もし重複しているのであれば、前述のローズメイさんの社員教育事例のように「一緒にやっちゃいましょう」という展開もあるでしょう。

弊社でも、グループ研修や前述のように経理を一緒に雇ったり、オフィスすら一緒にしてしまうケースがあります。誰かが旗を振ればみんな乗っかってくるはずなのに、誰も旗を振らないから勝手がわからないままの状態で過ごしてしまいます。それは非常に無駄なことだと思います。

細かくいえば、みんなでシェアしたら1個買えば済むものを各社で一つずつ買っているといった無駄も同じです。

企業共創を成功させるポイント

企業共創を成功させるポイントは次の通りです。

ポイント1:ビジョン・世界観に共感できる

企業共創を成功させる条件として、まずビジョン・世界観に共感できることが挙げられます。

気が合わなければ、組むことはそもそも難しいです。逆に言えば、自分のビジョンと世界観をある程度言語化、表現できるようにしておく方がいいとも言えます。

私の例だと、人の可能性をデザインしたい、と思っているため、ド派手なスタートアップや過度な成長志向よりも、地に足をつけて頑張っている人を応援したいと思っています。

この考えに響いてくれる方とは組みたいと思えますし、逆に「次のGAFAを作るんだ」みたいに肩に力が入った方と私はあまり合わないので、友達のままでいるという選択をします。

このためまず、自社のビジョンと世界観をちゃんと築き、自分自身でもそれを伝えられるようになられると良いでしょう。

ポイント2:両社の利害が一致している

次は、両社の利害が一致していることです。共創を目指そうとしても、残念ながら実態が「お手伝いベース」になりがちです。

「ちょっとこれやってよ」と言えば「いいよ」と言ってくれるものの、それだけでは利害が一致しているのではなく手伝ってくれているだけの関係です。

つまり、こっちには利益があるがあちらには大した利益がない状態だと、なかなかモチベーションは続きません。

お客さんの紹介程度では、点に過ぎません。企業共創と呼べるほどの分厚い関係ではないです。

私の経験上、皆さん口では「いいよ」「いいよ」と言ってくれるものの、その後が展開しません。動きをもたらすには利害の一致が必要です。

ポイント3:両社のリソースが活かされ、補われている

あとは、両社のリソースが活かされ、補われることが共創に必要です。

ポイントは、新しい人を入れて新しい技術を仕入れて、新しい予算を作ろうという足し算ではなく、一つのリソースを何人かで使う考え方を持つことです。経営の言葉で言うと「範囲の経済」です。

例えば、営業マンがルートセールスをする場合、どうせならそこにもう1商材乗せましょう、といったことです。

ほかにも「ちょっとここの部品が足りないので使わせてください」とか、何かしらを補う方が話が進みやすくなります。

このように足し算で最初から重たくせず、今あるリソースをしっかりデザインしていくべきではないでしょうか。そもそも、リソースがなければなかなかビジネスは進めづらいものです。

自分から見たらガラクタでも、人から見たら宝になるようなことは結構あります。その宝探しをするためにも、自分には何があるのかについて棚卸して、言語化できるようになれば良いでしょう。

ポイント4:既に構築されている仕組みをもとに提携する

新たな努力をする場合、労力が重たいはずです。皆さんもお忙しいと思うので、そんな暇がないというように、なかなか実行できることではありません。

そこで、もう既にあるもの、今ある仕組みをもとに提携を考えます。

このやり方なら企業共創がより確実に動き始められます。

そもそも共創とはお互いの強み・リソースをぶつけ合うことです。仲がいいからといって、新しいものを打ち出そうとすると大変ですので、既にお互いが持っているリソースや仕組みに着目して考えましょう。

ポイント5:本業とのシナジーがあること

お手伝いベースはやめようという理論と連動しますが、私の経験上、本業とシナジーがありそうなビジネスを相手に示唆すると、喋っている時の目つきがちょっと変わります。いい話かも知れない、ということを見分けているのかも知れません。

一方、本業と関係ない話を提示しても、ワンチャンスあれば噛みたいな、程度の食いつかれ方しかしません。

経営者がグッと寄ってくる話題を提供することがポイントなので、ヒアリングを深めることで本業とのシナジーがあるような話題を探るべきでしょう。

企業共創のヒント

実際に企業共創を進める上でのヒントについて解説します。

ヒント1・2を加味すれば、技術力や商品力についても企業共創が生まれやすいはずです。

【ヒント1】販路から考える

特に新規事業において、前述の技術力・商材力・販売力を元に話を進める際、販売力をベースに考えると、話が成立しやすいです。

三つとも大事ではありますが、話が立ち上がらないことには進まなく、立ち上がれば関係者のモチベーションが一気にアップすることは多いと思います。

販売力、つまり販路があると話が早く進みます。経営者同士で新事業を「やりましょう、やりましょう」という気概が高いケースは多いものの、0を1にする段階で話が消えてしまうことがザラなのではないでしょうか。

必ず販路がないと駄目というわけではなく、販路から考えた方が企業共創が実現しやすいというヒントです。先程のような必須条件ではありません。

【ヒント2】PLよりBSの提案

営業会社は商品開発が苦手な会社が多いという話と似た話になりますが、「売る」行為からは、いわゆるPL(損益計算書)上のヒットしか産出できません。資産として積み上がるものがない傾向が多いです。

例えば時価総額という概念で営業会社を見たときに、会社や事業を売っていても大した額になりません。

逆に言うと、例えば開発会社とかサービスの会は売上がそこそこでも時価総額が大きくなりやすいです。今であれば上場が目立つIT系のSaaS企業が該当します。

営業会社は、資産的価値、「BS(貸借対照表)的な分厚さ」を創出できていない傾向にあります。

とはいえ営業会社だけが上記に該当するわけでもありません。「販売」に強いため売り上げはあるものの、「未来に対する何かが設計できるか?」に答えられない、単年度成績つまりPL的思考の企業は少なくないはずです。

BS的な考え方とは、通年ではなく積み上げによるものです。かつ、資産・資本が絡み合う複雑なものです。

「よかったらうちの商材を売ってください」だと、単なる営業対応と変わりません。

そうではなく、売る力がある会社さんに「このブランドを一緒にやりましょうよ」とか「株式を一緒に持ち合いながらやりましょうよ」という共創提案になります。より具体的に言うと「プロダクトやサービスを一緒に育てて、いつかバイアウトする日が来たときに売却益が狙えるようにしませんか」といったBS的な提案がポイントとなります。

営業パーソンに該当する方々は、足元の売り上げを追いかけることに奔走されているため、失礼ながらさほど将来を考えられていない場合もよくあります。しかしながら、現状は将来のことを考えられていないだけで、将来の話ができるのであれば嬉しい方は多いです。

vol.04では、企業共創を実現するための具体的な方法論や、成功させるための秘訣など、少し細かいノウハウを解説しました。これをやれば必ずうまくいく程、企業共創は簡単なことではありませんが、ヒント1・2を加味して、販売力=販路から押さえることで、仕入れやコーディネートといった次の出会いの場が得られれば、技術力や商品力についても企業共創が生まれやすいはずです。ぜひ、実践をしてみてください。

最終回の「vol.05:企業共創を実現するための3つのステップ〜STEP3:企業共創を成功させる方法②〜」では、より良い企業共創を実現するための3つの条件など、さらに一歩先に進むための方法論や、今回のセミナーの総括をしていきます。

(次回に続く)